先日、国内累計販売本数が100万本を突破したことが報じられた『スプラトゥーン2』。わずか一月での達成ということで、前作『スプラトゥーン』に続き国内でも指折りのTPSタイトルになったと言えるだろう。
Nintendo Switchの品薄を引き起こすほどの魅力がこのゲームのどこに存在しているのか。これまでのFPS・TPSと差別化が図られている点を主に紹介していく。「興味はあるけれど、まだプレイしたことはない」という方はぜひご覧いただきたい。
従来のシューターに必要な技能と初心者参入の壁
埋めがたい経験の差
シューター界隈における経験の格差が覆し難いものになっているのは大きな問題だ。ベテランプレイヤー達のプレイ年数は軽く10年を超える。まさに戦場に生きた男たち。鍛え続けたプレイヤー達のテクニックは、もはや別のゲームをプレイしているように見えるほど華麗だ。
プロゲーマーを筆頭に、彼らは間違いなくこれからのシューター界を率先して引っ張っていく立場にある。だが、これが新規参入の難しさを助長する一因となっている。同じ初心者でもあちらは歴戦の初心者なのだ。まともに戦ってもやられてしまう。
中級者・上級者の中では、長年積み重ねてきた鍛錬を簡単にひっくり返されてはたまらないと考える方が大半だろう。実力の差がしっかりと反映されなければそのゲームをやり続ける意味がなくなるというのはもっともな意見だ。練習して上手くなる事こそ最大の楽しみであるのは、どの対戦ゲームでも共通している。いわば、「当然のこと」だからだ。
しかし一方、オンライン対戦の実装が当たり前になっている今時のTPS・FPSで、当然のことをそのままにしすぎると初心者が居なくなる。新たに入ってくるプレイヤーが少なくなれば、あとは廃れゆくばかり。無数にある娯楽の中の1ジャンルであるゲームの中の、これまた無数にあるソフトの中から自分たちのゲームをプレイヤーに選んでもらうためには初心者の参入が欠かせない。
この致命的な矛盾を解決するため、それぞれのデベロッパーは様々な方針を打ち出している。レート制によるマッチングは典型的な例だが、最近はゲーム性自体に初心者が参加しやすい仕組みを組み込んでいる作品も少なくない。
例えば『Battlefield 1』であれば「補給」や「回復」を一手にこなせる兵科が存在しないため、継続して戦闘するためには相互に助け合う事が欠かせないシステムになっている。『オーバーウォッチ』であれば、キャラごとのロール(役割)を明確に分類し、プレイヤーに求められる立ち回りをシステム側で最初からきっちりと定めてある。
ここに更に一発逆転の要素を盛り込んでいき、初心者が萎えてやめないようにする。この手の配慮は最近のゲームだと標準装備といっていい。
もちろん、戦っているプレイヤーのレベルが上がるに連れて、要求されることは必ず増えてくる。しかし、何より「初心者でも始めやすい」というのはこれからのオンラインシューターに欠かせない要素であることは間違いない。
前線の予測
「FPS・TPSで初心者が敵に勝つために大事なことは?」と問われれば、“AIM力”と答えるプレイヤーも居るだろうし、“チームワーク”や、“積み重ねた経験”と答える人もいると思う。
これは非常に曖昧で、なかなかに答えづらい質問だ。プレイヤーの数だけ答えがある。だが、私が一つだけ答えられるとすれば“予測”を選ぶと思う。
FPS・TPS問わず、ゲームを始めたばかりの初心者にありがちな問題は、「一体どこから攻撃されているのか分からないままにやられてしまう」というものだ。いわゆる「前線」が見極められていないとこの状態に陥ることになる。
前線とは味方の居るエリアと敵の居るエリアを2つに区切るラインだ。仮に両チームが真横に一列で並んで向かい合っていれば一直線になるだろう。だが、実際にはそんなことはほとんどない。大抵のゲームの大抵の試合で、敵味方共にあちらこちらに散らばっていて、前線はグチャグチャになっている。
そんなグチャグチャの境界線を見極めるのにはある程度の経験が欠かせない。味方の動き、マップの構造、狙うべき目標の位置などから敵がどう分布しているのかを予測する。その予測を元に、どこからどう攻めるべきかを決めていく。全てのシューターで共通する基礎であり、奥義でもある。
これが初心者を苦しめる。完全な初心者は、前線の位置を把握できないままに突撃してやられてしまったり、逆に自陣側に退きすぎて暇を持て余す羽目になってしまう
仮に他のシューターゲームの経験があれば上達は早いだろうが、それでもゲーム毎に適応するために多少の時間を要するだろう。結果、どうしても新しいゲームを始めるときの腰が重くなってしまう。それまでシューターゲームをやったことがないプレイヤーならなおさらだ。
いざ決心をして乗り込んでみたはいいものの、わけがわからないままに大量のデスを積み重ねてしまい、そのゲーム自体あるいはシューターというジャンルがまとめて嫌いになったプレイヤーは決して少なくないはずだ。
かくいう私も、現在『スプラトゥーン2』と並行してプレイ中の『BF1』で、プレイし始めた当初は気持ち良いくらいにボコボコにされ続けた。キルレシオが1を安定して超えるようになったのは100時間近くプレイした後だ。初めての『BF』シリーズとはいえ、お世辞にも上達が早いとは言えない。今思い返すと、我ながらよく耐えられたなと思う。名も無き新兵を支えてくれたチームメイトのおかげだ。
『スプラトゥーン2』が選んだ戦略
ポップなビジュアル
『スプラトゥーン2』を全く知らないプレイヤーに最初に紹介するとすればこれだろう。見た目にわかりやすい魅力的なキャラクターたち、そして武器やステージのビジュアルである。『スプラトゥーン2』はビジュアル面を練りに練って新規プレイヤーの獲得を試みたのだ。
まず、プレイヤーキャラクター「インクリング」のデザインがきっちり差別化されている。ユニバーサルデザインと呼ぶのが正しいのだろうか?とにかく基本路線は”可愛い”なのだろうが、それだけでは説明しきれない魅力がある。
この人間と言われれば人間だし、人外と言われれば人外だと納得してしまうような絶妙のライン。インクリングはインクリング以外の何者でもない。これまで任天堂が培ってきたキャラデザインの経験が遺憾なく発揮されている。
SNSがすっかり生活の一部に組み込まれてしまった現代において、見た目のキャッチーさは馬鹿にできない。プレイヤー同士が共有している様々な情報に、新しいユーザーが少しでもピンと来て調べれば成功だ。あとは売る側が苦心するまでもなく様々な情報に触れていくことになるであろう。
また、SNSでの話題性を考えると、フェスの存在も欠かせない。運営側から出されるお題に対して2つの陣営を選んで戦っていくイベントだが、この選ばれるお題というのが笑えるほどくだらないものから、ハッとさせられる深い問いかけまで実に様々だ。
ちなみに、『スプラトゥーン2』最初のフェスのお題は「ケチャップvsマヨネーズ」だった。唐突に調味料の優劣を争い始めるプレイヤー達の姿は外部から見れば実に奇妙なものに映るだろう。これもまた、興味を持ってもらうためには良い手段だ。ちなみに勝ったのはマヨネーズだ。
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このSNSの活用という点において、『スプラトゥーン2』は他に類を見ない成功を収めたといっていいだろう。多数のユーザーが日々、『スプラトゥーン2』の魅力を伝え続けている。彼らが楽しそうに話をしている姿こそ、何よりの広告なのだ。
塗れば見える前線
「インクで塗る」という行為のオリジナリティについては今更語るまでもない。『スプラトゥーン』が『スプラトゥーン』である最大の理由だ。しかし、これを既存のシューターと比較して見てみるとどうだろうか。
先述したように、私がFPS・TPSでもっとも大事だと思うのは予測する力だ。ズバ抜けた腕を持つプレイヤーはまるで敵の動きがリアルタイムで見えているかのような動きを見せてくれる。もちろん、中に不利な状況を覆すようなスーパープレイも数多くあるが、基本は「自分が不利な状況に最初から持ち込ませない」という選択の連続だ。
これは彼らの今までの経験からくる予測であって、簡単に覆せるものではない。逆にそこを簡単に覆せるようになると、ゲームの競技性が失われる。しかし一方で、初心者を萎えさせる最大の要因でもある。
「インクで塗る」というシステムは、その大きくなりすぎてしまった格差に対して任天堂が出した一つの解決策だ。「前線を目に見えるようにする」という画期的なシステムだ。
『スプラトゥーン』プレイヤーなら周知のことだが、このゲームにおいて自チームのインクで塗っているエリアの恩恵は計り知れない。イカ状態になってインクに潜れば、ヒト状態で歩いている時とは比べ物にならないくらい速く移動できる。またインクに潜っている間は基本的に敵からは見えず、体力もインクタンクも回復する。
一方で、敵のインクを踏んだときの害も相当なものだ。持続的にダメージが入り続け、足をとられまともに動けなくなる。敵の塗ったインクに潜ることは出来ないため、体力・インク回復が出来ない。まな板の上の鯉ならぬ、まな板の上のイカである。あとは煮るなり焼くなり好きにして下さいと言わんばかりだ。
この極端な恩恵と害が戦略を生む。『スプラトゥーン2』において、何をやるにしても“塗る”という行動が欠かせないのだ。移動するにしても、敵へ攻撃を仕掛けるにしても、まずはそこまでの経路を塗らないとろくに動くことも出来ない。全ての行動の根底に“塗る”という土台がある。
よって、『スプラトゥーン2』においては、少なくとも真正面の豆粒のような敵プレイヤーから一撃でやられることはない。殆どの場合においてインクを塗って移動できるエリアからしか攻撃が来ない。この恩恵は初心者から上級者まで、等しく与えられる。経験を積まなくとも、前線を目で見る事ができる。
もちろん、その塗られているエリアのどこから敵が来るか予測し、対応するためには経験が必要だが、少なくとも前線がどこまで広がっているのかは目に見える形で把握できる。敵のインクに近づけば危険度が増すし、味方のインクの中にいれば多少は安全だ。このシステムが救った初心者の数は決して少なくないだろう。
こまめなアップデートとアップデート内容の公開
オンラインゲームとデータの修正は切っても切り離せない。昨日までの強武器が今日には見向きもされなくなっているという事態が起こりうる。常に変わっていく環境がオンラインゲームの醍醐味であり、弱点でもあると言えるだろう。
『スプラトゥーン2』は既に発売から3回のアップデートを行っている。それはブキごとのバランスの調整だったり、細かなバグの調整だったりするが、いずれもその詳細がきちんと公開されている。例えば、最新のアップデートの調整内容はこのように詳細な内容だった。
ゲーム開発の専門家でもなければ、あらゆるブキでS+をカンストするウデマエの持ち主でもない、いちイカにすぎない私にこのアップデートの正否を断ずることはできない。今現在でも一部ブキやスペシャルへの不満は絶えないし、あらゆるデータについて常日頃ああでもないこうでもないとの議論が繰り広げられている。
私がここで大事だと思うのは「詳細がきちんと公開されている」ことだ。上記リンクを参照して貰えばわかるが、任天堂は特にブキの調整についてはきっちりとその変更された数値を明らかにしている。元の数値に対し、何がどれだけ変更されているかをすべてのユーザーに公開しているのだ。
これはある意味諸刃の剣であると思う。データの変更が実際のプレイにどのように影響するのかはやってみないとわからない。仮に調整が妥当ではないと思うプレイヤーが多ければ、その不満の声は連鎖的に大きくなっていく。不満に思うプレイヤーの数など、公開するまでわかるはずもない。
だが、正否を別にして、任天堂がそれだけの覚悟でデータを公開していることについて、素直に賞賛の声を贈りたい。運営が何を問題だと思っていて何を問題ないと思っているか、プレイヤー側がはっきりと知ることが出来る貴重な機会だからだ。
我々プレイヤーには選択肢が与えられている。運営の方針を拒否してゲームをやめてしまう自由と、運営のこれからを信頼してゲームを続けていく自由が同時に存在している。どちらを選ぶかはプレイヤー次第だ。
何より重要なのは、批評と選択の機会がきちんと与えられていることだ。ここは全てのオンラインゲームがそうなるべきだと強く思う。常に環境が変わっていってしまうオンラインゲームだからこそ、その中心にある運営の思想はブレずにいて欲しい。
総括:これからの任天堂の方針が注目されるゲーム
『スプラトゥーン2』はこれ以上ないほどのロケットスタートを切ったタイトルだ。発売一ヶ月で100万本、Nintendo Switch所有者の2人に1人以上のプレイヤーが所持しているという数字が何よりの証拠だ。
ただ、大事なのはこれからだ。『スプラトゥーン2』が完全無欠のゲームだと言うつもりはなく、当然ながら欠点はしっかりと存在している。例えば浅い知識で下手に語ってしまうとツッコミでタコ殴りにされかねないため、あえて言及を避けた「ブキのバランス」なんかがその最たる例だ。強いスペシャルウェポンが強いメイン・サブと合わさると、環境を支配するブキセットになる。まぁ当然といえば当然なのだろうが、すべてのブキに活躍するチャンスが存在しているとは残念ながら言い難い。
オリンピック種目になるのではとも囁かれているeスポーツだが、eスポーツ方面への期待はもちろん、心配も同じくらいに大きい。シビアさが行き過ぎるとライトさが薄れるのが道理だ。1とくらべてナワバリバトルですらキルペースが上がっているように感じるのは、基本的にどのマップでも中央が広く、アクセスが容易だからだろうか。撃ち勝てないと塗れない状況も確実に増えた。
きっと『スプラトゥーン2』は今、過渡期にあるのだろう。任天堂の考える『スプラトゥーン』が徐々に変化しているのを感じる。何を弱体化して、何を強化するのか。追加されるマップはどのような構造になっているのか。月に一回行われているデータ更新が次の『スプラトゥーン』の形を物語ることになる。次回のアップデートと、本作の今後が楽しみなのは間違いない。
スプラトゥーン2 紹介映像
『スプラトゥーン2』は絶賛発売中で、対象プラットフォームはNintendo Switch.
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コメント
コメント一覧 (12件)
前作でもやりたい人はいたけど落ち目のWiiUを買いたくないからswitch出るまで我慢してたって人が
スプラ2でイカデビューしただけであってスプラ2がすごい~とかではないと思う
前作でもやりたい人はいたけど落ち目のWiiUを買いたくないからswitch出るまで我慢してたって人が
スプラ2でイカデビューしただけであってスプラ2がすごい~とかではないと思う