ゲームキューブやWiiなど、任天堂の旧世代ハード用のゲームソフトをPC環境でエミュレートできる「Dolphin Emulator」が、デジタルミレニアム著作権法に違反していると任天堂から通告されました。
Steamでも間もなく公開予定だったこのエミュレーターは、任天堂の訴えに応じてSteam版の公開を無期限延期することを発表。このエミュレーターは、許可されていない暗号鍵を使っているという点に違法性が見出されたようです。
任天堂ソフトのエミュレーターにストップがかかる
Dolphin Emulatorは、任天堂の旧世代ゲームハードである「ゲームキューブ」や「Wii」の専用ソフトのエミュレーターで、簡単に言うと対象のソフトをPCやAndroid、Xbox One、Xbox Series X | Sでもプレイすることを可能にするものです。現在はオープンソースとなっており、エミュレーター自体は無料ダウンロードが可能です。
開発チームは2023年の3月ごろの発表で、第2四半期を目処に、VALVEが提供するゲーミングプラットフォームSteamでも、このエミュレーターをダウンロードできるようにすることを目指していました。これは、携帯機であるSteam Deckでのプレイも可能になることを意味します。
しかし日本時間5月27日、任天堂はこのエミュレーターが米国のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に抵触しているとして、VALVE経由で公開停止を求める旨をDolphin Emulatorに通告。「任天堂が認可していない暗号鍵を使用して、対象のゲームにアクセスする仕組みがこのエミュレーターに備わっている」というのがその主たる根拠です。
Dolphin Emulatorの開発チームは、この通告に応じたことをブログで報告。Steam版Dolphin Emulatorの公開は現在、無期限延期となっています。今後自分たちの取り得る選択肢について調査したうえで、続報を届けるとのこと。
海外ゲーマーは「驚かないね」
昔のゲームを現代のPC環境でプレイしたいというゲーマーの要望は平成の昔からあり、Dolphin Emulatorはそれに応える数あるソフトのうちの1つです。
(ソフトそのもののデータ配布は論外として)エミュレーターの合法・違法性については、長らく個別に議論されてきました。Dolphin Emulatorについては、グレーゾーンとはいえ20年近く公然と提供され続けていたものであったため、Steamで公開される段階になって任天堂が動いたことが、メインユーザーである海外ゲーマーから疑問視される一因になっているようです。
なお任天堂の著作権保護の動きについては、エミュレーター以外にも、マリオやゼルダ、ポケモンなどのファンメイド作品やMODを数多く公開停止させていることが、以前から度々注目されています。
たとえば2016年には、Game Joltで公開されていた500以上のファンメイド作品を停止。その後2021年にはさらに379個のファンメイドを停止(GAME RANTより)。個別作品でも、『Pokemon Prism(ポケモンプリズム)』という8年がかりのファンメイドを公開直前に停止させるなどの出来事がありました(※この作品はその後、4chanにデータがリークされ、これをダウンロードした有志たちの手により調整された「ファンメイドのファンメイド」として公開されるという、奇怪な経緯を辿っている)。
こうした過去の傾向もあって、Dolphin Emulatorのリプ欄には「任天堂はいつもこうだ」、「驚かないね」などの言葉が寄せられています。
ファンメイドは必ずしも危険ではない
日本国内だけでなく海外においても、「任天堂は自社の権利侵害には非常に厳しい」という話が(時にはやや誇張気味に)広められていますが、中立的な見方もあります。
2022年には、マリオシリーズのファンメイドが集まったMario Fan Games Galaxy(MFGG)から15本のゲームが停止されましたが、これはこのコミュニティが作ってきたすべてのファンメイドの1%程度です。
上掲の動画でDidYouKnowGamingが解説しているように、そのファンメイドが明らかに収益を得ようとしていたり、実質的な無料ダウンロードのように機能して、元ゲームの売上を阻害する可能性がある場合のみ任天堂は動いており、ファンメイドのすべてを敵視しているわけではありません。
MFGGも、マリオに関しては「ファンメイドを作るのは危険なことではない」とファン側に呼びかけています。ただし、ゼルダやポケモンなど他のシリーズでは基準が異なる可能性があります。また、合法か違法か以前にポルノ系のファンメイドは削除される傾向にあります。
任天堂側のコメント
今回の件については、任天堂スポークスマンからのコメントがKotakuに寄せられています。
任天堂は、ビデオゲームのエンジニアや開発者の努力と創造性を保護することを約束します。このエミュレータは、任天堂の保護措置を違法に回避し、ゲームの違法コピーを実行するものです。違法なエミュレータやゲームの違法コピーを使用することは、開発に害を及ぼし、最終的にはイノベーションを阻害することになります。任天堂は他社の知的財産権を尊重し、ひいては他社が同じようにすることを期待しています。
やはり上述したように、Dolphin Emulatorの個別の仕組みに違法性を見出したことがうかがえます。
違法性が認められた場合、ゲームをコピーされること(=事実上の値下げと収益低下)で、果ては研究開発のための予算も損なわれるため、イノベーションを阻害するという主張はもっともなものです。
衝撃度もあって、全体的な「エミュレーターの是非論」にまで発展しているコメントも見られる今回の任天堂の動きですが、まずはDolphin Emulator個別の問題として、開発チームが行っているという調査の結果を待ちたいところです。
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Source: Twitter, Game Rant, Kotaku
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