名作バトルロイヤルゲーム『Fortnite(フォートナイト)』の開発元であるEPIC Gamesが、AppleがApp Storeを独占しているのを良いことに開発とユーザーに必要以上の出費を敷いていると提訴。Androidを擁するGoogleもついでに相手取り、ITの二大巨頭を巻き込んだバトルロワイヤルのコングを打ち鳴らしました。
EPIC Games、AppleとGoogleを独占禁止法に基づき提訴
Epic GamesはApp Storeの独占に異議を唱えました。報復として、Appleは10億のデバイスでFortniteをブロックしています。https://t.co/VwLAHlzLap へアクセスし、2020年を「1984」にしないための闘いに参加してください。 pic.twitter.com/LSKyXiXQVA
— フォートナイト (@FortniteJP) August 13, 2020
EPIC GamesはAppleやGoogleがアプリの配信と課金システムを独占しているとして、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所で訴えを起こしました。この訴訟は金銭的な賠償項目は一切なく、代わりに公正な競争の実現に向けて商売独占の差し止め命令を出すことが求められています。
また、EPIC GamesはYouTubeでAppleの「支配体制」を揶揄する動画を公開、世界で3億5000万人超のユーザーに「アプリストアの独占と戦おう!」と呼びかけています。この動画は『Fortnite』内からも視聴可能です。
Nineteen Eighty-Fortnite
訴訟の理由
ユーザーがスマートフォンのアプリから課金を行った場合、OSに応じてAppleやGoogleが30%の手数料を徴収するようになっています。簡単に言えば開発者だけが苦労して作ったアプリの収入を30%も持っていかれるわけですから、この価格設定にはかねてから多くの開発者が不満を抱えていました。
しかもiOSはアプリをインストールする手段がApp Storeしかないのです。Appleはそれを良いことに、アプリの課金要素を値上しないとストアから下ろすと脅すなど、開発とユーザーの誰もが望んでいない押し付けでお金を稼ぐギリギリな行為を多く行っていました。
このような状態が続くとアプリ開発やユーザーの成長につながらない。そんな懸念はここ数年ずっと続いており、つい最近も6月中旬に欧州委員会がAppleに対し調査を開始し、7月下旬に米議会で独占禁止法が話題に上がった際も、アプリ配信が論点のひとつになるなど、欧米双方の政府が関心を寄せる事情になっています。
EPIC GamesもAppleに対して不満を抱えてきた企業の1つですが、今回はこれら欧米政府からの追い風をチャンスに、AppleとGoogleへの一番槍を取った形です。
Today, Apple said Epic is seeking a special deal, but that's not true. We're fighting for open platforms and policy changes equally benefiting all developers. And it'll be a hell of a fight! https://t.co/R5A48InGTg
— Tim Sweeney (@TimSweeneyEpic) August 14, 2020
Appleへの挑発と訴訟への流れ
およそ8月13日の夜からEPIC Gamesは『Fortnite』内の課金システムに、Appleのアプリストアを回避するだけでお金を節約できるユーザーフレンドリーな格安プランを実装しました。
これに対してAppleはすかさず報復として、「ストアとユーザーの安全のため」という理由で『Fortnite』をアプリストアから除外。ここから両社の交渉に入ると思いきや、EPICはAppleを批判する動画を電撃公開し、徹底抗戦の構えを見せました。流れとしてはEPICがAppleを釣り上げてからの逆襲を決めた形です。
実はiOSアプリのApple手数料は回避方法の裏技があり、例えばYouTubeはこの裏技を利用してAppleに手数料を取られない格安プランを提供しているのですが、そのような裏技を使わなかったEPICは単に金銭目的ではなく、意図的にAppleを挑発したと見ていいでしょう。
所感
何より今回の件がドラマティックだと感じさせるのは、20年前はAppleがEPIC Gamesの位置に立っていたという事実。ちょうど小説『1984』の舞台と同じ年に、Appleはこんな広告をテレビで流していました。
Apple 1984 Super Bowl Commercial Introducing Macintosh Computer (HD)
『Fortnite』のトレーラーと全く同じ流れのこの映像は、今は亡きAppleの創設者スティーブ・ジョブス氏によると、当時のコンピューター技術市場で莫大なシェアを持っていたIBM社を意識して撮られたものだとされています。
ほかにも1998年には米国連邦政府がマイクロソフトを独占禁止法で訴えました。Apple、Java、Netscape、Linuxなどのプラットフォームや企業が連盟して「マイクロソフトはWindows OSにソフトをタイアップして市場を独占している」と声明し、マイクロソフトの敗訴という実を結びました。
EPIC Gamesもそれを意識してか、訴状にて「Appleはかつて自分が対抗しようとしていた存在になってしまった」と記載しています。率先して独占に抵抗する旗印だったAppleが、今回は逆に訴えられる側に立つとは。時間の流れと無情さを感じずにはいられません。
特筆すべきはEPIC Games自体はユーザーからすると、こと市場独占に関しては賛否両論な企業だという点です。数年前に同社はSteamのPCプラットフォームでの独占的な位置を打ち破るためと称し、EPIC Game Storeという自社のプラットフォームを展開しました。
新規プラットフォームはゲーム開発者にとって新たな可能性と選択肢を提示し、競合によってSteamにも規約を見直させるきっかけを作るなど、開発者目線からするとゲーム業界の発展に寄与しています。ですがSteamだけで全てが済む便利な環境を享受していたユーザーからすると寝耳に水で、今でもEPIC Gamesに不快感を示すゲーマーは少なくありません。
iOSのユーザーからしても、普通に『フォートナイト』を楽しんでいたところに唐突に企業間のしがらみに巻き込まれ、好きなゲームを遊べなくなり「余計なことをしやがって」とEPICを恨む声が。「数百万人の右も左も分からぬ子供たちに武器を与えて暴動に駆り立てるのは、はたして正しいのか」という指摘も。
しかし同時にEPICの一挙を応援する声も多く挙がっています。現在『Fortnite』は公式チャンネルにて、ひたすら上のトレーラーをループ再生するだけのライブ放送を行っていますが、8月14日午後3時の現時点にて低評価8478に対し好評価は18万超えを達成。
独自で長らくAppleに対抗してきたSpotifyを始め、一部の中小アプリ開発者もいち早くEPIC Gamesを応援する声明を行っています。他にも期待されるのはかつてAppleに辛酸を舐めさせられたマイクロソフトの動き。
マイクロソフトはクラウドゲームサービスの「xCloud」を今年の9月からAndroid向けに提供すると発表していました。ストリーミング技術を利用し、Xboxを持っていなくてもスマホからXboxゲームを遊べるようになる画期的なサービスなのですが、つい先日の8月頭にAppleはxCloudをiOSに対応させないと発表。
6月のEUの調査介入、7月の米国議会での質問会、そしてここにきてマイクロソフトとiOSをめぐるトラブル。わざわざApple自身のCMのパロディ映像を作ったことも考えると、今回の訴訟は突発的なものではなく、追い風を受けたEPICが計画的に行ったものだと見ていいでしょう。
勝算ができてからはじめて計画を実行するのは勝負事の基本ですが、EPICが切り出したバトルロイヤルはこれからどう転ぶのか、Appleに意趣返ししない理由がないマイクロソフトはどのように介入するのか、まだまだ目が離せません。
ベンチャー企業Epyllion IndustriesのマネジャーであるMatthew氏は「EPICは他の大企業のようにAppleと特権的な契約を結ぶこともできたが、その代わりに市場のために戦う道を選んだ」と評しています。中小のインディークリエイターが次々と名作を生み出していく昨今、この件が開発者にとってよりよいゲーム作りにつながることを願うばかりです。
PvP『フォートナイト バトルロイヤル』は絶賛配信中で、対象機種はPS4 / Xbox One / Nintendo Switch /PC / Mac / iOS / Android。PvE『フォートナイト 世界を救え』の対象機種はPS4 / Xbox One / PC / Mac。
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