Mundfishが開発し、先日PC版が発売された架空の旧ソ連を舞台にした“異世界ソ連”アクションRPG『Atomic Heart(アトミックハート)』ですが、ウクライナ政府が同国国内におけるデジタル版の全面販売禁止を求める公文書を、ソニー、マイクロソフト、Valveに対し送る予定であることが明らかになりました。
『アトミックハート』の販売禁止を求めるウクライナ政府
ウクライナのデジタル変革省による発表と主張は以下のとおり。
- ソニー、マイクロソフト、Valveに対し、ウクライナにおけるデジタル版『アトミックハート』の全面販売禁止を求める公文書を送付予定。
- 我々はこのゲームの有害性、ユーザーデータの収集、ロシア国内の第三者への送金の可能性、ゲーム販売で得た資金をウクライナへの戦争に使用する可能性から、他国での販売を制限するよう求める。
- すべてのユーザーへ、このゲームを無視するようお願いする。またこのゲームの開発者は、プーチン政権とロシアがウクライナに対して行った、血なまぐさい戦争を非難する公式声明を出していないことを、欧米のユーザーにも強調しておきたい。
公式サイトでは「キプロス」の会社だが...
『アトミックハート』の公式サイトには、「2017年、志を同じくするキプロスの住人たちが、夢のゲームを実現するためにMundfishスタジオを設立しました。当時の社員はわずか4人でした。そこからAtomic Heartの歴史が始まったのです」と記載。しかし各メディアの反応を見ると、どうもこの説明を素直に信じることはできないのかもしれません。
『アトミックハート』は実質ロシア製ゲームであることを隠している?
大手ゲームメディアEurogamerは2023年2月、次のように指摘しています。
- 開発元Mundfishのチームは元々モスクワ出身にも関わらず、出自を偽装している
- ポーランド、ウクライナ、オーストリア、グルジア、イスラエル、アルメニア、UAE、セルビア、キプロスの10カ国で活動する「経験豊富な国際開発チーム」で構成されていると記載。ただロシアが抜けている(※明確にロシア出身者がいるにも関わらず)。
- Mundfishへはロシア企業による出資が報告されている
- ロシアのメディアが同スタジオをロシア系と表現し続けている
- 『アトミックハート』は親ソビエト的なテーマで、ロシアを美化している(引用の形)
- 本作の売上はロシアへ送られる(詳細後述)
また、昨年11月にはロシアの報道関係者向けに『アトミックハート』の豪華なプロモーションイベントを開催。会場参加者は旧ソ連の衣装を身にまとい、「ソ連の技術者に栄光あれ」「同志よ、明日の社会へ」と書かれた看板が掲げられたとしています。
なお『アトミックハート』の作曲者は、「ウクライナの人々と共に」と自身の報酬をウクライナへ寄付しています。
アンチ・アトミックハート AIN.Capitalの主張
アンチ・アトミックハートの急先鋒とも言える、テックメディアAIN.Capitalは次のように指摘。ゲーム購入前によく考えてほしいとしています。
- Mundfisに掲載されているプライバシーポリシーは、ユーザーデータの収集と、このデータがロシアの国家当局、特に税務署と連邦保安局に転送される可能性を記載(ロシア語のみで英語版にはない)
- データ収集の対象者は、Mundfisのサービスや製品を購入しようとする人を含むmundfish.comのすべての顧客・消費者・訪問者
- (「キプロスの住民」と言っているのに)Mundfishの法的住所はまだモスクワのまま。これはロシアの会社であることの直接的な証拠。
- LinkedInでスタジオの創設者たちのプロフィールを確認できる。Artem Galeev、Robert Bagratuni、Oleg Horodisheninはロシア出身で、Bagratuni氏はMail.ru(ロシア最大のメールサービス)の元トップマネージャー。
- スタジオへの出資者は中国Tencent、ロシアGEM Capital、Gaijin Entertainment。 GEM Capitalはロシアのファンドで、Mundfishは2021年に彼らから投資を調達した(注:これは公式サイトに明記されています)。
- Mundfishは同社にコメントを求める人々をブロックしている
- Mundfishはウクライナの戦争についてコメントせず、ロシアの非難もしなかった。「政治と宗教にはコメントしません」とだけ述べている(注:実際には曖昧ながらも「暴力に反対する平和のための組織」とは言っている)
- このゲームの主人公はKGBの少佐で、ロシア軍とKGBを中立的、あるいは好意的に描いている
- 『アトミックハート』の発売日が戦争開始日(注:正確には大統領令発令)と同日
以上のような理由から、AIN.Capitalは次のように訴えています。
「たかがゲームと言われるかもしれませんが、ロシアとその当局による戦争犯罪やテロ、ソ連時代のウクライナ人に対する犯罪の歴史を考えると、このプロジェクトはデジタルゲームストアからも、世界中のゲームコミュニティからもボイコットされるべきです。透明性の欠如した開発者、怪しい投資家、そして旧ソ連の賛美などは、ゲーマーにとって警戒すべき点でしょう。『アトミックハート』の世界市場における人気は、メディアの支援とともにこのゲームをロシアのプロパガンダという危険な道具に変えてしまいます。
もし『アトミックハート』が、制裁を受けたロシアの企業やロシア政府にとって“システム上重要な”銀行経由の資金で開発されているとすれば、ゲームの利益はロシア政府のウクライナ侵攻に向けられる可能性があります。だからこそ、『アトミックハート』を購入する前によく考える必要があるのです。」
売上金が戦費となるのはあくまでも可能性にとどめてはいますが、ファンタジー世界観かつ戦争前に開発が開始されたゲームに対してはなかなかに強烈な主張。なお、AIN.Capitalはウクライナの大手メディアAIN.UAの一部です。
開発開始は侵攻の5年も前
ロシアのプーチン大統領は2022年2月21日、ウクライナ東部の分離主義地域の独立を認める大統領令に署名。その72時間後には軍事行動を開始しています。『アトミックハート』の発売日は1年後の2023年2月21日です。
もちろん『アトミックハート』のプロジェクトが動き出したのは戦争開始の5年も前で、「売上金が戦争に」という批判はMundfishにとって予想外であることは間違いありません。
Mundfishはなぜ弁明しないのか?
純粋にゲームを楽しみたいだけの我々からすれば迷惑な話ですが、少し前から「ロシアとの関係」や「売上金はロシアに送られる」といった指摘があったにも関わらず、発売日と戦争開始日の“偶然の一致”への弁明や、混乱を避けるための発売日変更などは検討されなかったのでしょうか。
“隠蔽”と受け取られかねない開示情報や行動への積極的な弁明も見受けられません。なお、Mundfishがロシアと強固な繋がりがあるとすれば(資金的にはすでに明確ですが)、報復の恐れや何らかの契約で下手な事が言えない・弁明できない可能性も考慮すべきでしょう。
収益が戦費に...?
「収益が戦費に回される」という仮定のもと、適当な数字でざっと計算してみます。9,000円の『アトミックハート』が1年かけて100万本売れるとすると、売上高で68億円(フルプライスで40%、3ヶ月後の3割引で30%、半年後の5割引で30%と仮定)。
開発費、マーケット、セールス、製造、配信先の利用料などを引いた分が利益ですが、戦車1台を約10億円とすると良くても数台買える程度でしょうか(詳しい方教えてください)。
Steamではすでに「非常に好評」と高い評価を得ている『アトミックハート』ですが、ウクライナ側の主張を見ると無邪気に楽しむことができない方もいるでしょう。もちろん、政治とスポーツ、政治とゲームは分けるべきだとの主張も尊重されるべきです。
Mundfishへの質問はいくつかのメディアが送っているようですが、返答はない模様。もし回答できるなら、世界的に何らかの声明を発表したほうが良い状況にはなっている気がするので、EAAでも送ってみたいと思います。
Gaming Device Power Tune for FPS
Source: Eurogamer1 2, AIN.Capital, via 4gamer
コメント
コメント一覧 (36件)
こんなこと言われたら万が一に買えなくなる可能性を考えて、買いやろw
気になってるし
そうだね買わないよゲーパスでプレイするから
しっかし面白かったなぁこのゲーム。
内容が日本政府が強引に推し進めるコロワクと将来見据えたムーンショット計画とリンクするのは私だけかしら…
前ロシアのインディースタジオが戦争始まってからsteamで売れてもお金入ってこなくなったから買うぐらいなら割ってくれ見たいなこと言ってたな
ウ政府このゲームエアプだろw
内容知ってて「旧ソ連の賛美」とかぬかしてるなら
読解力に問題がある…
むしろウクライナ人こそこのゲームをするべき
発売前に言えよ
出てからそれっぽいこと言って止めようとすんなよ
後だしじゃんけんかよ
いや買うだろ
黙れよウソライナ
ならてめぇもゲーム作って戦争の資金集めろや
発禁になる前に買った方がいいな
「...EAAでも送ってみたいと思います」かぁ...
Mundfishの姿勢はもう政治に関するコメントはしないで一貫していることがわかっているので、EAA(と言うよりもこの記事を書いたライターさんかな)はこの最後の一言は余計に思えてしまうな
そもそも戦争以前から長いこと開発していたタイトルなんだし、現実の問題とは分けてほしいなあ