日本の愛知県は常滑市で開催された、『Rainbow Six Siege(レインボーシックス シージ)』の世界大会「レインボーシックス シージ プロリーグ シーズン 10 ファイナル」の決勝前に行われたインタビューです。新たなオペレーターはいかにして産まれたのか? 新マップの予定は? 赤裸々に語ってくれた興味深いインタビューをご覧ください。
スタイリッシュなゲームデザイナー、Emilien Lomet氏
EAA!!:本日はよろしくおねがいします。そしてようこそ日本へ! 滞在は楽しめましたか?
Emilien:ファンタスティックですね!つい最近到着して結構忙しく走り回っていたのですが、幸運なことに私の同僚でUXデザイナーの方が日本人で、しかも出身地がここ愛知なので、昨日常滑市をドライブして回ってくれたんですよ。しかも日本コミュニティ自体もとても歓迎してくれ、皆さん暖かく迎えてくれました。
EAA!!:すばらしい!ところで、日本の読者向けに改めてご自身が開発で担当なされている部分の紹介をお願いします。
Emilien:はい、私はゲームデザイナーです。開発ではオペレーターのコンセプトを設定し、デザインし、トーナメントに持って行ける仕上がりになるまでの作り込みを担当しています。言わばオペレーターを「ゼロ」から「ヒーロー」にするまでの全工程や、スタッフの情熱を絶やさないよう、他部門と常に交流することも担当していますし、マッチメイキングなど様々なコア機能の制作と連携、ゲームのプレイフィールやバランスも全て私の管轄下です。
よくゲームデザイナーは「アイデアの有無のみが求められる」と誤解されているのですが、アイデア力なら誰でも持っているものです。むしろ、「良いアイデア」自体なら誰しもが出すことができます。RedditやTwitterには新オペレーターのアイデアが常に溢れていますし、どれもこれもが面白いものばかりです。
ですが、開発リソースとシステム仕様の制限下で如何にしてアイデアを活かしきるか、それこそが私達ゲームデザイナーの仕事なのです。
EAA!!:構想を保ったまま現実に落とし込むのがデザイナーの真骨頂なわけですね。
『R6S』は最大限の文化や地域を網羅
EAA!!:では早速新オペレーターについて、インドとケニアという出身地域にはどのような思いが込められているんですか?
Emilien:実は私はキャラクターの地域や設定に関しては関与しておらず、ユニヴァースチームという専門の部門が『R6S』のストーリーや世界観を構築しています。なので私からは深い分析はできませんが、チーム全体としては『R6S』は常に最大限の文化や地域を網羅することに全力を尽くしています。
これは『R6S』内の世界に限った話ではなく、現実においても世界各地のコミュニティを巻き込んでいきたい。より多くのプレイヤーが今作に帰属感を抱けるようになる機会は常に逃さず捉えるようにしています。もちろん、世界には膨大な数の国家がありますが、私達もゆっくりとできる限りのオーディエンスに手を伸ばし続けています。
ボルトアクションライフル実装の経緯
EAA!!:攻撃側の新オペレーターであるKALIはグラズ以来の2人目のSR、そして初のボルトアクションスナイパーライフルを所持する事になります。今このタイミングでそのような存在を実装したことには何らかの意図があるのでしょうか?
Emilien:ボルトアクションライフルのアイデア自体はかなり以前からコミュニティと、開発自身も検討していたんです。ただ、『R6S』の環境とは相性が悪いのです。射線は往々にして短いし、TTK(キル所要時間)もすでに短い。なのでこの武器を『R6S』に持ち込むこと自体がナンセンスです。
アイデア自体は面白いので模索は続けていたのですが、模索すればするほどこのアイデアをきちんと形にするまでにはたくさんの時間とリソースにエネルギーが必要だという事が分かりました。
そして最近になってオペレーターの開発にかけることができる時間や、適切なバランス取りに必要なプレイ層との交流も充足に取れるようになったので、ボルトアクションの様な複雑な工程が必要となる要素の実装に踏み切って良いタイミングだと判断しました。これがもし去年(2018年)や2年前だったら、実装はかなり無理矢理になり、半分壊れていて誰も満足しないようなオペレーターが出来上がっていたでしょう。
開発工程としては慎重に慎重を重ね、様々なプロ選手とも合計6回に渡るテストプレイを実施し、確実に問題ないと言えるバランスを追求しました。何しろ極端な武器ですから、使っていて楽しく、使いみちもあり、フラストレーションを生じないようにデザインするのはとても難しかったので、構想から数年経った今になって実装したのはそれが理由です。
悲劇は二度と起こらない
EAA!!:ありがとうございます。深い考慮があり、実際にプロ選手とも何回か相談したんですね。強力すぎるオペレーターはeスポーツルールでBANされる例もありましたが、今回のオペレーターはその点も考慮しているのですか?
Emilien:はい、長い時間を掛けて開発しましたし、途中で何度もタッチポイントを設定して細かい調整を繰り返し、正しいと思えるバランスを目指しました。ひたすらテストと調整を繰り返すだけの重複作業も行いました。今回の様な新工程で生まれたオペレーターは、実装時から問題児となる事はないと信じています。
もちろん、実装後も様子をみて細かい調整は加えていきますが、「R6S暗黒時代」の頃と比べると今では開発プロセスもはっきり階層的になりましたので、ライオンやブラックビアードのような悲劇は二度と起こらないはずです。
プロ選手の皆様とも相談を繰り返しましたが、新オペレーターはどちらも“丁度良い位置”に居ると思います。細かい調整は加えられるかもしれませんが、プロリーグそのものからBANされるような事はないでしょう。新オペレーターの通例上、しばらくは様子見で使用禁止になるでしょうが、早い段階で解禁されると思います。
Wamaiが産まれた4つの理由
EAA!!:Wamaiの固有ガジェットはイェーガーと役割が似通っていますが、現状メジャーで使われているオペレーターに敢えて似たような新オペレーターを実装する理由は?
Emilien:理由は大きく分けて4つあります。1つ目に、イェーガーはほぼ必須レベルで使用されているオペレーターで、とくに試合のレベルが高くなるほどその傾向は深まります。そして私達にとって「必須キャラ」となってしまうオペレーターが出来上がるのは好ましくはなく、様々な選択肢を提供したいのです。イェーガーを押し付けるような環境はできる限り回避したい。
2つ目は、PICK&BANシステムを組み合わせると、イェーガーが一旦BANされてしまうとグレネードに対する解答が1つもなくなってしまいます。そういった事態を回避するために、代替になりうるオペレーターを実装する必要がありました。
3つ目に、イェーガーは非常に強力です。そのためいつか調整する必要が生じた場合、その唯一性ゆえに開発側からすると“調整しづらいキャラクター”になってしまいとても困るんです。グレネードに対するただひとつの対策ですから、下手に変えると環境全体に大きな影響を与えてします。ですがもう1人同じ役割のオペレーターを追加すれば、2キャラ間でより良好なバランスを模索することができるようになります。
最後の4つ目の理由は、イェーガーは素晴らしいキャラクターですが、創造性や楽しさは欠けていると感じているからです。イェーガーを遊ぶこと自体は楽しいのですが、それは彼が強いキャラクターだからであって、「楽しさをクリエイトする能力」は物足りない。
EAA!!:とても直球なオペレーターですよね。
Emilien:そのとおり、とても直球です。面白い試合模様を“作り出す”のではなく、ゲームから何らかの“要素を除外する”能力です。グレネードを投げられたらポンッ!ほら消えた。Wamaiはそれとは対照的で、発生した事情を捻じ曲げることができます、たまにはとてもクレイジーな方向に。スモークを天井に差し向けたり、キャピタオの窒息ボルトを爆弾の向こうに届けたりとね。
イェーガーは『R6S』の古参キャラクターで、デザインもそれに応じ非常にシンプルなものになっています。ですが私達としては『R6S』をより創造性に満ちたゲームにしていきたい、Wamaiにはそんな思いが込められています。
初期オペレーターとクリエイティビティ
EAA!!:なるほど。そのような創造性が足りない問題児というのは開発視点からみるとイェーガーの他にも居るのでしょうか?
Emilien:ええ、本当に。かなーーりありますね、特に初期のオペレーターは。ほとんどのオペレーターはそのままで良いと認識していますから、“問題児”というと言い過ぎかもしれません。ですが一部のクリティカルな役割に限るなら、よりたくさんの選択肢を用意したいとは思っています。例えば、アッシュは非常に直球なキャラですが、それで良いんです、楽しいしクリエイティビティもありますね。
ですがイェーガーのような重要性の高いキャラクターに関しては、「俺はシンプルにガジェットを設置して部屋を防衛するんだ!」というプレイスタイルもいいですけれど、もしやりたいならばWamaiというキャラで「味方を守りつつ敵の攻撃をそのまま敵に返す知的プレイもできるよ!」という感じですね。
新マップや新キャラの予定
EAA!!:時間も押してきたので最後に、テーマパークのリワークは素晴らしいものでしたが、新マップを求める声もかなり多いようです。特に長く遊んでいるプレイヤーからは大きく要望が上がっていますが、今後の予定を聞いても?
Emilien:それに関しては詳しくは打ち明けられませんが(笑)
EAA!!:話せる範囲内でお願いします(笑)
Emilien:ええ、それでもよければ。まず新マップ実装の問題点に関してなのですが、新たなマップを実装するたびにゲームのラーニングカーブは指数関数的に険しくなっていくのに、すでにたくさんのマップが実装されています。一方で「オペレーター」はそうでもなくて、例えば新プレイヤーでも気になったオペレーターを何人か選んで遊びこめば、むしろ遊ばなくても動画などを幾つか参照すればある程度のレベルには到達できます。
しかし「マップ」は、完全に理解するためには数時間か数十時間もやりこまなくてはなりません。そして私達が新マップを実装すればするほど、初心者がすでにプレイしている層に追いつくための敷居は高くなります。なので新マップの実装は一旦スローダウンさせ、新オペレーターにはどんどん実装してきたわけです。
今後一切新マップを作らないわけではなく、これからもいつかは機をみて実装していきますが、まず1つ目に「そこまで大量のマップが必要か」と言えばそうでもなく、2つ目に「既存のマップは完璧なのか」と聞けばそれも違います。特に昔から実装されているマップは様々な問題を抱えているので、それらの悪いマップを改善することに注力しています。
そこそこ良いとされているけど徐々に飽きられ始めているマップも、別段悪いわけではありませんが改善の余地はあります。それらをカフェ並のバランスに仕上げたり、例えばオレゴンや国境などプロリーグ常連のマップだって更に完成度を上げることができるかもしれない。
目新しさは常に追求していきます。新オペレーターも実装するたびに、新たなプレイスタイルを確立できるように意識しています。そして新マップの設計も完全に破棄したわけではありませんが、最近は新マップ実装よりも旧マップのリワークに集中していますね。経験者のプレイヤーや新規プレイヤー、その中間にいるすべてのプレイヤーがスムーズにゲームを楽しめるようにしたいのです。
https://fpsjp.net/archives/343465
https://fpsjp.net/archives/343484
https://fpsjp.net/archives/343324
レインボーシックス シージ プロリーグ シーズン 10 ファイナル
試合のアーカイブ映像は以下から視聴できます。
『レインボーシックス シージ』の発売日は2015年12月10日で、対象機種はPS4、Xbox One、PC。
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コメント
コメント一覧 (2件)
とりあえずファべーラのリワークをお願いしたい…。カジュアルやってたらマッチが始まる前から抜ける輩が現れるくらい不人気マップだから…。
元が糞なMAPはどう頑張っても良くはならんよ ヘレフォードと運河がその例。根本から全部変えないと無理